旅の記録59 カモメと旅した三陸

■日程■
2007/11/22-25
■距離■
@0km A42.4km
B25.0km C10.3km
■同行者■
カモメ
■交通■
[行き]
田老駅下車
[帰り]
岩手船越乗車


 冬型の気圧配置が気になり始めた、11月終わりの連休。三陸を漕げる今年最後のチャンスと思い、意を決して行ってきました。東京から夜行バスで出発して、釜石で下車。郵便局でカヤックを受け取り、さらに山田線と北リアス線で田老まで北上。三陸海岸の中心とも言うべきフィールドで、シーカヤックツーリング開始です。
 田老は、鮭の遡上する川があることで有名です。丁度時期も良く、田老川の川原へ出てみると、何百匹もの鮭が川上を向いて泳いでいるのが見られました。でも、魚網で囲まれた河口は、鮭が自由に行き来することはできません。すべて人の手によって捕らえられ、人工孵化させた稚魚が放たれるのです。おかげで私達は安く鮭を食べられる訳ですが、この行為は永続できるものなんでしょうか。

 この日、午後から漕ぎ出すつもりで、カヤックを苦労して海岸まで運び、組み立てをしていたところ、徐々に雲行きがあやしくなり、雪が降り始めました。風も時々強く吹き、気温も急激に下がってきます。時間はまだ2時ぐらいでしたが、既に夕暮れのような雰囲気。たまらずテントを立てると、もうダメです。すっかり気力は消え失せ、初日はそのまま海岸でキャンプすることにしてしまいました。後で気が付きましたが、三陸はかなり北東に位置するので、大阪より40分も夕暮れが早いのです。4時にはもうすっかり暗くなってしまうのは予想外でした。早めの行動が肝心です。

 翌朝は、一転して、素晴らしい好天で始まりました。日の出と共に目を覚まして、いよいよ出艇。入り組んだ岩の割れ目を、縫う様に進んで行きます。これぞ三陸、という光景です。順調に漕ぎ進み、10時頃には観光地として有名な、浄土ヶ浜に到着。

 今日中に、本州最東端のとどヶ崎を回りたかったので、まずは閉伊崎へ。宮古湾を出ると、北からの強い追い風が吹いており、閉伊崎では数メートルのうねりと相まって波が立ち、カヤッカーにとって厳しい状況になっていました。今までの経験を総動員してひたすら漕ぎ続け、どうにか入り江に退避。昼食を取った後は、数メートルのうねりに乗りながら、とどヶ崎を目指しました。
 その途中、一面の巨大な養殖用の網が現れました。隙間を通り抜けてしばらく進むと、30cm間隔ぐらいで浮きが付けてあるロープに突き当たってしまいました。この風とうねりの中で、浮きを乗り越えるのは危険。海岸沿いは荒れているので、沖へと迂回しますが、はるか彼方まで浮きが連なっていて、とても大回りすることになってしまいました。ここは、カヤックで漕ぐべき場所ではないという印象ですが、もし漕ぐ方がいらっしゃれば、ご注意下さい(地図のルートは正確ではありません)。
 とどヶ崎を過ぎると、波も落ち着いてきて、楽しいツーリングの再開です。夕日に照らされた巨岩の間を漕ぎ進んで行くのは最高の気分。この日は、山田湾の入り口の浜で、焚火キャンプ。

 翌朝はほとんど無風のカヤック日和。また岩の間をすり抜けながらのツーリングを楽しんでいると、海上に動きのおかしいカモメがいるのを見つけました。何度も飛び立とうとするのですが、足に何か引っかかって、飛び上がれないようです。近くまで行ってみると、別のカモメとの間で、釣り糸が絡まっていたのでした。もう一羽の方は、既に息絶えて、沈んでいました。

 こんな状況に遭遇して、そのまま見捨てて行くわけにも行かないので、ナイフを取り出して、暴れるカモメに噛み付かれながらも、釣り糸を切ってやりました。そのまま飛んで行くと思っていましたが、次の瞬間、全く予想もしていなかった展開になります。カモメは、カヤックのデッキの上に乗ったまま、動こうとしないのです。特にけがはないようですし、それ程弱ってもいなかったので、飛び立とうと思えば、すぐに飛べるはずなのに。
 ゆっくりとパドルを動かして、カヤックを進めてみましたが、一向に飛び立つ様子がありません。決して、足を縛ったりしている訳ではないのですよ。彼の意思で、カヤックの上に乗っているのです。そんな経緯で、カモメをお供にしたツーリングがスタートしました。
 洞窟にも一緒に入ってみました。真っ暗闇で、ちょっと不安そうなしぐさをしていましたが、やはり降りる気はないようです。山田湾を横切るときには、少々波風もありましたが、よろめきながらもデッキに立ち続けていました。

 そうして3時間ぐらい一緒にツーリング。私の方が漕ぎ疲れて、お腹も減ってきたので、昼食のために船越半島の海岸に上陸することにしました。着岸した瞬間に、カモメはさっと飛び立ち、10mぐらい先の岩に降りました。その後、私が食事を終えて出艇するまでそこを動こうとせず、最後まで見送ってくれました。
 なぜ、カモメがこんな行動を取ったのかは分かりませんし、「命の恩人に感謝の気持ちを表していたのだ」なんていう感傷を動物に押し付けるつもりは全然ありません。でも、少なくとも私のカヤックの上で、一緒に旅をすることを気に入ってくれたのは間違いないでしょう。

 その後は、ソロに戻って、船越半島のツーリング再開です。文句の付け様がないほど、見事な岩の数々。

 少し入り江に入ると、素晴らしく澄んだ海岸と、海に流れ落ちる滝。私としては、ここの方が浄土ヶ浜ですね。水が乏しかったので、ちょうど補給もできました。
 この日は、小谷鳥の海岸まで漕いでキャンプ。ここで、偶然にも、地元でカヤックをやっている方とお会いし、しばらくお話することができました。どんなところにも、同じ趣味の人はいるものですね。

 最終日は、一番良い天気となり、ポカポカ陽気の船越湾をのんびりと漕ぎながらがら、三陸ツーリングを終えました。いつまでもこの時間が続いてくれたらな…… なんてことを願ってしまったひとときでした。