旅の記録67 断崖の下北半島

■日程■
2008/7/27-30
■距離■
@38.8km A14.9km
B26.4km C15.9km
■同行者■
なし
■交通■
[行き]
JR浅虫温泉下車
[帰り]
大間からバス


 下北半島西岸は、海岸としては、本州最大の秘境と言っても過言ではないでしょう。まだシーカヤックで漕いだ人もそれほど多くないはず。なにしろ遠い。特に車でリジッドカヤックを運搬することを考えたら、うんざりすると思いますが、フォールディングカヤックを電車で運び、陸奥湾横断を組み合わせると、意外に楽に行けてしまう、という旅レポートです。

 東京から新幹線で八戸に向かい、在来線に乗り換え、浅虫温泉に夜中に到着。暗かったので、周りの状況が良く分からず、砂浜にテントを張ってキャンプ。しかし、近くで花火を始める若者が多くて辟易。あまり眠れないまま朝を迎えて、辺りを見渡すと、どうもキャンプ禁止の場所だったようなので、そそくさと撤収。砂浜の海水浴場は、浮きで囲んであり、出艇もできません。浜の外まで移動して、ようやく漕ぎ出し。

 夏泊半島の北端まで漕ぎ、観光地で早めのお昼にして小休止。下北半島は15km先にぼんやりと見えます。東風がやや強く吹いていましたが、特に問題ない状況だったので、陸奥湾横断スタートです。
 海は静かで、カヤックの状態も万全。GPSは、予定のコースを着実に進んでいることを示しています。およそ2時間で、目指す鯛島の灯台が近づいてきました。

 島を北側から見ると、左向きの鯛のような形をしているので鯛島。いままでいろいろな島を見てきましたが、こんな奇妙な形の島は初めてです。一部は工事されてますが、全体の形は自然が作り出した造形のようです。上陸してしばらく散策しますが、あまりにも海鳥が多くて、悪臭漂い、死屍累々、糞の雨。早々に退却です。

 脇野沢まで漕いで、下北縦走に向けて食料を買出し。案内図を見ると、九艘泊にキャンプ場があるようなので、今夜の野営地にすることにしました。しかし、海岸沿いの歩道を通らないと行けない場所にあり、歩道も所々壊れているので、陸路で行くのはかなり困難でしょう。キャンプ場としては、既に閉鎖されているようで、建物は廃墟と化し、水も出ません。何も手を加えなければ、気持ちのいい天然の野営地だったのになぁ。
 翌日より、いよいよ下北の核心部へと漕ぎ出し。見事な断崖が次々と現れます。洞窟はあまり多くないのですが、奥へ抜けている穴もありました。このツーリング中、ずっと東風だったので、西岸は波が立たず、岸ベタを漕ぐことができました。

 漕ぎ進めると、岩壁の色や形が次々に変化していきます。同じエリアで、これほど多くの種類の岩が見られるのは珍しい。

 小さな浜で上陸すると、海岸は色とりどりの玉石で敷き詰められていました。地質のバリエーションの多さを物語っています。白、青、緑、黒、茶…… 岩石の標本のようです。

 絶壁の断崖が続くので、滝も随所で見ることができます。 左は黒滝、右は今滝。今滝では、近くでカヤックを降りて、水浴びをすることができます。源流から、人工物に一切触れないまま流れ落ちる、ピュアな天然水シャワーです。

 この日は、大荒川の河口に広がる浜でキャンプ。比較的水量のある川ですが、自然の状態のまま、河口まで流れています。もう、日本ではこんな川は皆無に近いでしょう。奇跡的に残された原始の川です。

 翌日は、断崖が続く海岸を、さらに北に漕ぎ進めます。どこまで漕いでも、次々に新たな色や形の岩が現れてきて、飽きることがありません。なぜこんなに複雑な構成の地質になっているのか不思議です。

 牛滝の集落に立ち寄った後、さらに北へ向かうと、白っぽい色で、複雑に侵食された岩肌に変化しました。左は、猫が岩の上に寝そべっているようですね。

 そして、いよいよ有名な景勝地の仏ヶ浦に到着。鍾乳石のように侵食された、白い石柱が屹立しています。まさに、巨大な石仏が立っているようです。

 ここは、観光船も頻繁にやって来て、多くの観光客が上陸して奇岩の見物をしていきます。仏ヶ浦を過ぎると、もう一度岩質が変化し、最後の絶景を見せてくれます。

 その後、海岸は、道路が通るなだらかな緑の斜面となります。長い間、人を寄せ付けない断崖が続いたので、ほっとする気がします。
 しばらく進むと、100mほどの岩山が二つそびえていたので、浜で上陸して登ってみました。高いところから、下北の海岸を見るのはとても気持ちがいい。近くにキャンプ場もありましたが、ファミリー向けの雰囲気だったので、もう少し漕ぎ進むことにしました。

 人恋しさも感じ、佐井集落近くの浜でキャンプ。食料が乏しかったので、飲食店を探しましたが、ほとんど休業中。そこで、精肉店で久しぶりに新鮮な食材を買い、豚肉のしょうが焼きの夕食にしました。

 翌日は、目的地である、本州最北端の大間崎を目指します。大間の原発を横目に見つつ、漕ぎ進めると、根田内崎付近で、強い向かい風なのに妙に景色の流れ方が速く、海もざわついた感じがします。GPSを見ると、9km/h前後の速度を示しています。非常に速い海流に乗っているのでした。

 潮に乗って順調に進み、無事、大間崎に到着。長かった下北の旅もこれで終了……の予定でしたが、北を見ると、少し先に弁天島という灯台のある島が見えました。まだ先が見えてしまうと、ついつい行きたくなるのが悪い癖です。

 大間崎の展望台に立って、海況確認。風はやや強い東風。海流は西からの流れ。両者がぶつかる大間崎の東側では、大きな白波が立ち、危険なゾーンができています。潮と風が逆なので、釣り合いが取れるだろうと考えました。距離は約600m。
 海流の影響の方が強そうだったので、20度程度上流を向けて漕ぎ始めました。最初は、順調に進みますが、途中で急に流れが早くなり、少し上流に向けて漕いでいるのにもかかわらず、カヤックの速度は時速9kmを超えていました。さらに、島の直前の流れは複雑で、まるで川の瀬のように渦巻き、思うようにカヤックコントロールができません。あと少しで島の東側まで流されるぎりぎりのところで、エディ(岩の下流側の流れが緩やかな場所)に入ることに成功。そこからフェリーグライドで、島に到達できました。いやいや、冷や汗かきました〜
 帰りは、同じコースを通ったら、明らかに流されるので、まずカヤックを担いで、島の上流側まで陸路で移動。そして、まっすぐ上流に向かって漕ぎ、流れのゆるい位置まで移動してから本土へ渡りました。行きもこのコースを取るべきでしたね。
 津軽海峡は、対馬海流から分流した津軽暖流が、日本海から太平洋に流れています。当日の時間帯は上潮なので、潮流の方向は太平洋から日本海へ向かうはずですが、潮流よりも津軽暖流の影響の方が大きいようです。挑戦する方は十分ご注意を。

 無事に弁天島から戻って、今度こそ下北ツーリング終了。カヤックをパッキングしてから、海鮮丼のお昼ごはん。テーブルで食べる食事は3日ぶりです。冒険の後のめしはうまい!