旅の記録36 口永良部島一周

■日程■
2006/5/2-4
■距離■
@14.9km A0km
B22.4km
■同行者■
なし
■交通■
屋久島からフェリー


 翌朝は、宮之浦から、8:10発のフェリー太陽で口永良部(くちえらぶ)島へ。口永良部島は、フェリーが1日1往復しかなく、しかも偶数日と奇数日で出航時間が変わります。船は小さくて、波に揺れやすく、私は気分が悪くなってしまいました。シーカヤッカーなのに船酔いに弱いのは情けない。自分で漕いでいれば、どれだけ荒れていても大丈夫なのですが……
 1時間40分の航行で、口永良部島の本村に到着。口永良部島の人口は150人程度で、ほとんどの人は本村の周辺に住んでいます。島にあるものと言えば、温泉が3箇所(西之湯、寝待、湯向)と、火山、牧場、原生林ぐらい。まさに秘境です。

 本村にある小さな生協で食材などを購入。この生協も、日によっては食材がほとんどないこともあり、この翌日からは3連休と、あまり当てにはできないお店のようです。浜辺で簡単な炒め物を作って昼食にし、ゆっくり休んで船酔いが良くなったところで、出艇しました。
 港から出ると、すぐに荒々しい原始の世界へと突入します。海岸は、溶岩が冷え固まってできた柱状節理が延々と続き、外洋のエネルギーを蓄えたうねりは、断崖に衝突して、あちこちで渦巻いています。岬を回る毎に、数百メートルの絶壁が次々に現れ、その雄大さには息をのみます。

 島の東を回ると、海は静かになり、陸もややなだらかな地形になります。港を出てから、最初の集落の湯向(ゆむぎ)で上陸。もう4時を回っており、この先は向かい風になるので、ここで泊まることにしました。集落を歩くと、初めて訪れるのに、懐かしさを覚えてしまうような田舎の風景がありました。放し飼いになっている鶏、木造の牛小屋、山から引いた水が流れる洗い場、庭先で草を食むヤギ。年月の流れが止まっているかのようです。

 近所のおじさんが通りかかったので、少し立ち話。シーカヤックで来たことを告げると、「ああ、カヌーね。よく来るよ。」 そ、そうですか!? 「民宿はそこにあるよー。あいてるよー。晩飯も食べられるよー。」という感じで、とんとん拍子で民宿のお世話になることになりました。泊まった宿は恵文(えみ)。GW中の急な訪問だったにもかかわらず、暖かく迎えて頂きました。
 この民宿は、口永良部島の中でも、最も奥の集落にある唯一の宿です。お客さんも、濃い島旅マニアが多く、とても面白いところでした。ここのご主人は、どうやら民宿は趣味でやっているようで、他にも漁師、酪農、農業など、一人でいろいろな仕事をこなしながら、マラソンのトレーニングも欠かさないという、相当ユニークな人物です。機会があれば、ぜひ訪れて頂きたいところです。
 口永良部島では、登山もしておきたかったので、宿の人にお願いして案内してもらうことにしました。翌朝は早起きして、有志4人で出発。登山口は、1966年の噴火のときに放棄された七釜集落跡の近くにあります。登りは1時間半程度で、道は歩きやすく、楽に登ることができました。古岳の火口周辺では、今でもあちこちから噴煙が立ち昇り、風下では硫化水素のにおいが漂います。本当は登山禁止になっているようですが、今は比較的落ち着いた状態で、それほど心配は要らないようです。

 山頂付近では、体が飛ばされそうなほど強い風が吹いていました。下山した後で、海を見に行くと、やはり大時化。出艇すら困難な状況だったので、一日停滞することにして、宿にもう1泊させてもらいました。

 登山後には、ご主人に連れられて、農業体験という名の草むしりのお手伝い。午後は、近くの牧場まで、一人で散歩してきました。火山の周囲のなだらかな台地は、良い牧草地になっていました。

 翌日は、風は止み、海況も穏やか。宿の人達に見送られながら出艇。宿のご主人からは、獲れたての生きたゾウリエビを2匹頂きました。草むしりの報酬かな? あり難いことです。このエビは、後で塩茹でと、味噌汁にして頂きました。さっぱりした味で、身もしっかり詰まっており、美味かったです。

 湯向を出て、40分程度で寝待に到着。海岸に立神という巨大な岩がそびえています。岩の真ん中には洞門があり、カヤックでくぐり抜けることができます。岩の裏から上陸して寝待温泉へ。ここが一番泉質の良い温泉だとか。さらに西之湯まで漕いで、また温泉で入浴。実を言うと、温泉地というところは、あまり好きではないのですが、口永良部の温泉は簡素でいい雰囲気だと思います。ちなみに、湯向温泉以外は男女混浴です。私が入ったときは、誰もいませんでしたが。
 西之湯の近くで腹ごしらえした後、いよいよ口永良部島の最西端を回りました。岬の先には、灯台のような岩の塔が立っており、印象的な風景になっています。その後、岬を回ると、東から強い向かい風が吹き荒れていました。この風に打ち勝たないと、帰ることができないので、パワー全開でパドリング。波もかなり高くなり、カヤックの船首が波に突き刺ささります。途中、岸壁に大きな洞門があったので、中に入って小休止。そうしているうちに、風もやや落ち着いてきて、どうにか本村の湾内に到達できました。距離にして5、6kmの区間ですが、2時間近くかかってしまいました。
 島を一周する場合は、いろいろな風向きに対処しないといけないので、状況判断には気を遣います。今回の場合、何とか上陸できそうな浜はありましたし、引き返せば風裏に回れるので、強引に進むことにしました。荒れた海では、逃げ道を複数確保した上で進むのが重要です。

 この日は、本村の浜で一人キャンプ。翌日は、屋久島まで漕げないものかと思ったのですが、あいにくの向かい風で、やはり断念。屋久島行きのフェリーは午後便だったので、ゆっくりと体を休めて、艇をしっかり乾かしてパッキングしました。

 屋久島に戻り、バスで安房に移動。屋久どんというレストランに併設されたキャンプ場で泊まりました。このキャンプ場は、綺麗に整備された庭園の中にあり、正面に海も見えて、なかなか気持ちの良いところでした。あちこちに七福神のようなオブジェや、屋久杉の根っこなどが置いてあり、独特の雰囲気を醸し出しています。キャンパーの気持ちも良く考えられており、テーブルや椅子の代わりに使える石が置いてあったり、開放的な露天風呂があったりと、快適に過ごせるキャンプ場でした。夜は、GWの忙しさで殺気立った居酒屋とバーをはしご。

 翌日の海はまたしても大荒れ。屋久島の東岸は是非漕ぎたかったのですが、東風が強いので無理でした。特にすることもなく、キャンプ場でのんびりしていると、シーカヤックをルーフに満載した車がやってきました。近づいてみると、知っている人がいます。なんと、テラワークスの諸喜田氏と、サウスアイランドのスタッフ、お客さんのご一行でした。諸喜田さんとは、以前に座間味ツーリングのときに無人島でお会いして、一緒にキャンプさせてもらったことがありました(旅の記録15参照)。再び偶然にお会いできたことは驚きです。海の男は引かれ合うものなのか?? 今回は、種子島と屋久島間の横断を計画していたそうですが、海況が悪かったために屋久島ツーリングに変更したそうです。
 この後、帰りの飛行機までには数日残っていたのですが、カヤッキングは口永良部島で十分満足しましたし、お天気も悪くなりそうだったので、カヤックは宅配で送ってしまいました。フェリーで鹿児島に戻り、開聞岳登山や、指宿、知覧で観光して旅を終えました。GW中にもかかわらず、こんな気ままな旅ができたのは、やはりシーカヤックならではですね。